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福岡高等裁判所 昭和34年(ナ)7号 判決 1960年7月26日

原告 高山円次

被告 福岡県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代理人は「昭和三十四年四月二十三日執行の福岡県議会議員一般選挙につき、宗像郡選挙区における選挙は無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として

一、昭和三十四年四月二十三日執行された福岡県議会議員一般選挙につき、宗像郡選挙区において訴外中村清之は正規の届出をなした立候補者であり、原告はその事実上の選挙事務長で選挙人名簿に登載された選挙人である。

二、本件宗像郡選挙区における県議会議員の定員は一名であり、届出の議員候補者は中村清之、花田新太郎、高山徳七郎の三名であつた。

三、選挙の結果各候補者の得票数は候補者花田新太郎一〇、四九一票、同中村清之一〇、四三九票、同高山徳七郎五、三六五票として候補者花田新太郎は当選者とされ、同中村清之は次点者となり、当選者と次点者の得票数の差は僅かに五十二票である。

四、選挙管理委員会は選挙に際しては投票の方法選挙違反その他選挙に関し必要と認める事項を選挙人に周知させなければならないことは公職選挙法第六条の規定するところである。殊に同時選挙の際には選挙人が投票の順序を間違えて、一の選挙の投票用紙に他の選挙の候補者名を記入するような恐れも多分にあるから、投票の順序等を選挙人に十分周知徹底させておくべきことは勿論である。

五、福岡県においては昭和二十六年四月三十日及び昭和三十年四月二十三日にも県議会議員の選挙と県知事の選挙とが同時に行われ、その際はいずれも、議員選挙の投票を先にし知事選挙の投票を後にした。然るに今回の選挙においては右の前例に反して知事選挙の投票を先にし、議員選挙の投票を後にしたのであるが、かように従前の順序を一変するような場合には、なおさら投票の過誤が生じ易いわけであるから選挙管理委員会はそのような過誤が生じないように十分な措置を講じ、殊に宗像郡のような選挙人の大多数が農漁民で知識程度の低い者の多い選挙区では、投票順序の変更につき、選挙人に特別の注意を喚起するよう処置を講ずべき義務がある。

六、然るに被告委員会は何等右のような措置をとらなかつたため、本件選挙において選挙人が前二回の投票順序のとおりと思い投票の順序を誤解した者が多数あり、現に知事選挙の投票用紙に議員候補者の氏名を記入して無効票とされたものが千数百票、そのうち議員候補者中村清之の氏名を記入して無効票とされたものが六百票以上、同花田新太郎の氏名を記入して無効票とされたものが二百票余に及び反対に議員候補の投票用紙に知事候補者の氏名を記入して無効票とされたものが、およそ千票あつた。

七、右のように被告委員会は公職選挙法第六条の趣旨に違反し、本件選挙の管理執行について適切十分な措置をとらなかつたものであり、これがため選挙人の真意が十分に投票に表現されなかつたものであつて、もし被告委員会が法に従つた適切十分な措置を講じていたならば、かかる選挙の結果は生じないのであつて、結局本件選挙は選挙の結果に異動を生じたことが明かであるから本件選挙は無効とさるべきものである。

と述べた。

(証拠省略)

被告代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として

一、原告主張の一乃至五の事実は認めるが、その余の事実、殊に被告が投票の順序等同時選挙において選挙人に周知させる必要がある事項の周知徹底のための努力を行わなかつたとする原告の主張はこれを否認する。すなわち

(イ)  被告は公職選挙法第百二十二条の二の規定により本件選挙及び福岡県知事選挙における投票及び開票を行う順序を定めるとともに告示した。(ちなみに告示は法定要件でない。)

而して被告が昭和三十四年四月二十三日執行の福岡県知事及び福岡県議会議員一般選挙における投票の順序及び投票用紙の印刷の色分を決定し、宗像郡各町村選挙管理委員会に連絡した経緯は次のとおりである。

1、昭和三十四年二月二十一日東京都で開催された都道府県選挙管理委員会委員長会議において自治庁当局から地方選挙及び参議院議員選挙に関する種々の示達事項とともに同時選挙における投票の順序の決定方法及び投票用紙の印刷色分について、指示及び指導を受けた。

2、同月二十一日右会議の出席者が帰庁すると直ちに、事務局として、投票用紙については県知事を黒、県議会議員を赤で印刷すること及び投票開票の順序については県知事を先、県議会議員を後とすることに内定した。

3、同月二十七日、福岡県内各市の選挙管理委員長及び各地方書記長を招集して、前記自治庁の示達事項を中心にして選挙事務打合せ会を開催した際、さきに内定した右投票の順序及び投票用紙の色別も連絡した。

4、同年三月七日被告委員会は第百二十二回委員会を開催し、投票の順序及び投票用紙の色刷の色について前記内定のとおり承認可決した。

5、同月九日福岡市箱崎町村会館に北筑前地方書記長(宗像郡及び粕屋郡を管轄する被告委員会の出先機関)が管下町村選挙管理委員会委員長を集めて、選挙事務打合せ会を開催し、右席上で前記3の被告委員会の指示事項を伝達した。

6、同月二十三日福岡県労働会館に各市委員会委員長及び各地方書記長を招集して、二回目の事務打合せ会を開催したがその際前記投票の順序等が正式に被告委員会で決定された旨の連絡を行つた。

7、同月二十七日北筑前地方書記長は同じく粕屋会館に管下町村委員会委員長を集めて、選挙事務打合せ会を開催し、右のことを連絡した。

8、同月二十九日県知事選挙の選挙期日の告示を行うと同時に県知事選挙の様式の告示を行い、その中で黒色で印刷する旨明示した。(乙第八号証、福岡県公報参照)

9、次いで同年四月八日県議会議員選挙の告示を行うと同時に

(a) 県議会議員の投票用紙の様式の告示を行い、その中で赤色で印刷する旨明示した。(乙第六号証、福岡県公報、告示第三十六号参照)

(b) 県知事及び県議会議員の投票及び開業の順序についても前者を先とする旨の告示を行つた。(乙第六号証、福岡県公報告示第四十一号参照)

(ロ)  それから被告は本件選挙等にあたつて県知事、県議会議員選挙推進計画を樹立し、ラジオ、テレビ、新聞広告、ニユースカー各種看板等によつて、選挙の公明化や棄権防止を選挙人に呼びかけるに際して、その一環として投票の順序及び投票用紙の印刷の色分けによる区別等同時選挙における投票の方法について必要と思われる事項の宣伝活動を活溌に行つたものである。

1、本件選挙の告示日以来しばしば日本放送協会福岡放送局の県民の時間その他のラジオの番組において投票の方法に関する解説を行つたが、その際投票の順序投票用紙の色刷、色分けによる区別等は特に強調した。

2、報道関係機関に対して投票の方法、特に投票の順序、投票用紙の色分による区別等についての特別記事の掲載方を依頼した結果それぞれ各新聞社は投票日の前日等に有効適切な投票の方法に関する記事を登載した。

3、投票日前日に朝日新聞、毎日新聞、西日本新聞、夕刊フクニチ及び新九州の各紙に登載した被告名義の新聞広告に「投票用紙は知事が黒刷り、県議会議員が赤刷りです。」という文句を入れた。

4、昭和三十四年四月十九日から同月二十三日まで全県下でニユースカーによる広報活動を行つた際(2)と同様の文句をくりかえし放送させた。

5、投票日前日及び当日、被告が選挙の啓発のためチヤーターしたセスナ機から頒布したビラにも同様の文句を入れた。

6、本件等の選挙の啓発ポスター各種看板類で両選挙を表示する場合、必ず県知事を先に県議会議員を後とし、またその場合にできるだけ投票用紙の色刷の色と一致させる意味で県知事選挙の文字は黒、県議会議員選挙の文字は赤で印刷した。

(ハ)  さらに被告の指揮監督の下に本件選挙の投票及び開票事務を執行した各市町村選挙管理委員会もそれぞれの立場から、投票の方法に関して必要と思われる事項の周知徹底のための啓発宣伝を行つている。これを宗像郡内の各町村についていえば

1、宗像町選挙管理委員会において

A 昭和三十四年四月六日から同月二十二日まで十七日間、公民館活動の一環として実施の巡回映画の場所において、棄権防止、公明選挙、投票用紙色刷の色別について啓蒙並に説明を行うように依頼し、これを実施した。

B 同月十八日、二十日、二十二日、二十三日の延四日間(昼夜七回)にわたり、次の事項を録音器に吹込み、自動車(トヨペツト)に拡声器を取付け、町内全域にわたつて巡回しつつ放送をくりかえした。

「投票所では、先に黒で印刷した県知事の投票を、次に赤刷りの県議会議員の投票順序になつていますので、間違いのないようお願いいたします。」

2、福間町選挙管理委員会において、

A 昭和三十四年四月九日町内全区長会議を開催、選挙について事務手続を説明した際、投票の順序及び投票用紙の区別等について選挙人に周知方依頼した。

B 投票日前日自動車を使用し棄権防止、公明選挙の宣伝に町内を巡回した際、投票の順序、投票用紙の区別について拡声器をもつて宣伝した。

3、津屋崎町選挙管理委員会において、

A 投票順序は最初が県知事、次が県議会議員である旨を投票所入場券の上部余白に明記して選挙人に周知徹底を期した。

B 拡声器をつけた自動車による宣伝も行つた。

4、玄海町選挙管理委員会において、

A 昭和三十四年四月十日発行の玄海町公民館報に両選挙の投票用紙の色分けの説明を掲載した。

B 各部落毎に公明選挙座談会(幻灯会を合せて)を開き、選挙知識の向上を図るとともに同時選挙における投票順序をわかり易く説明した。

5、大島村選挙管理委員会において、

各部落向けの有線放送設備を利用して、投票用紙が、知事は黒刷り、県議会議員は赤刷りにつき注意するよう数回にわたり放送した。

(ニ)  昭和三十四年四月二十三日本件選挙の投票日当日宗像郡五町村の各投票所においても両選挙の区別をはつきりさせて、投票の混同による無効投票の発生を防止するために次のような措置がとられている。

1、まず一般的に各投票所とも「公職選挙法事務取扱規定」(昭和二十五年福岡県選挙管理委員会訓令第十八号)第十七条(投票所の設備)の規定にもとずき、投票記載所は各選挙毎に設けられ、又法第百七十五条の二の規定による「候補者の氏名及び党派別の掲示」についても同条及びこれにもとづき定められた「公職選挙法及び同法施行令の規定による選挙運動及び政党その他の政治団体の政治活動に関する規定」(昭和三十年福岡県選挙管理委員会規定第四十一号)第三十五条により、それぞれの投票記載所の上部に掲示されており、且つ県知事選挙の投票終了後に県議会議員選挙の投票用紙を交付するように設備されているので、特別の事情がない限り投票の順序を誤ることは考えられない。(ただ玄海町の各投票所においては前記被告委員会の定める各投票所一ケ所の氏名の掲示の外に、各投票記載所内に氏名及び党派別をガリ版刷りにしたものが、掲示され右は県規定に反するものであるが、右は正規の掲示に加えてかような措置がなされたものであり、これにより何等の事故が発生していないから、これを違法としてとがめるには当らない。)

2、その上、各投票所とも被告の指示にもとづき、例えば「注意、はじめに県知事の投票を次に県議会議員の投票をして下さい。順を間違えると無効になります。」といつたビラを投票所の入口等見やすい場所に掲げていた。

3、また投票用紙交付の際、投票用紙交付係員は用紙交付の都度「知事の投票用紙です。」又は「県議会議員の投票用紙です。」と口頭で選挙人に伝えるよう指示され、それを実行した。

二、以上のとおり、被告は本件選挙において、同時選挙に伴う無効投票の発生の防止については予算その他事情の許す限り最大の努力を払つたのである。

もつとも本件県議会議員選挙の投票用紙に県知事の候補者名を、県知事選挙の投票用紙に県議会議員の候補者名を記載して無効となつた投票が多少あつたことは推定される。(しかし宗像郡におけるその数は別紙第一表のとおり開票録から前者が六六七票以下、後者が一、一二八票以下であることは確認できるが、その数字はいずれも無効投票分類中「候補者でない者の氏名を記載したもの」の数であるから、この中には両選挙の候補者に全然関係ない者の氏名を記載したものが相当数含まれているわけである。)けれども被告において法第六条に違反する措置があつたとの批判を受ける理由はない。

三、次に原告の県知事選挙及び県議会議員の同時選挙における投票の順序を前回の選挙の場合と異なり今回変更したことが無効票を増大せしめたとの主張は次の理由によつて認められない。

(イ)  まず原告の主張によれば同時選挙の場合、あたかも選挙人が県議会議員選挙が先で県知事選挙が後であるという先入観念をもつていたかのようであるが、前回及び前々回の選挙はそれぞれ四年及び八年以前のことであり、選挙人がその順序を記憶していたというには理由があまりにも薄弱である。

(ロ)  特定の選挙の投票用紙に他の選挙の候補者を書くのは投票の順序を誤つた場合に限らない。例えば県知事の投票用紙に県議会議員の候補者の氏名を記載した投票があるとしても、その投票をした者が逆に県議会議員の投票用紙に県知事の候補者の氏名を記載したとは限らない。(このことは別紙第一表による宗像郡各町村の両選挙の無効投票中の「候補者でない者の氏名を記載したもの」の数が大巾に異なつているところからも理解されるのである。)かりに投票の順序変更が無効票増加の原因となる可能性ありとするも、県議会議員選挙に関する限りにおいて、却つて今回の順序変更によつて無効投票発生は減少すると考えられる。すなわち県議会議員選挙が後であれば、先にあやまつて県知事の投票用紙に県議会議員の候補者を書いたとしても、その後交付された県議会議員の投票用紙に自己の投票せんとする候補者名を記載してその投票を有効になす余地がある。

四、選挙が無効とされるためには、法第二百五条第一項により、選挙の規定に違反することがあり、而もそれが選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限られるのである。しかるに原告の主張事実は「選挙の規定に違反することがあるとき」に該当しない。

すなわち、同時選挙における投票の順序の決定に関していえば、これは法第百二十二条の二の規定により被告が自由に決定できるのであつて、前回と順序を違えて決定したからといつて何ら選挙の規定に違反するものではない。又法第六条第一項の規定による、投票の方法等についての周知徹底に関していえば、もともと同条は公職の選挙に関する概括的な総則規定の一つで、各種の選挙管理委員会に対し、選挙に関し特に必要と認める事項を、平常時においても一般選挙人に周知せしめること、及び棄権防止につき適切な措置を講ずべきことを訓示したものであり、いわゆる効力規定ではなく、投票の順序を逆に宣伝する等、この規定がおかれた趣旨に著しく反する場合はともかく、単に宣伝活動が不足であつたというだけでは、選挙無効の主張としては不十分であり、而も被告は前記のとおり法第百二十二条の二の規定に基き、同時選挙の際の投票及び開票の順序を定めて、昭和三十四年四月八日直ちに告示の手続をとるとともに、投票日以前及び当日、投票所内外において、十分周知宣伝につとめたのであつて、「選挙の規定に違反」する事実はないのであるから原告の本訴請求は不当であると述べた。

(証拠省略)

理由

原告主張の一乃至五の事実については当事者間に争ないところである。

原告の主張によれば、昭和三十四年四月二十三日執行された本件福岡県議会議員選挙と福岡県知事との同時選挙においては、前回(昭和三十年四月二十三日執行)及び前々回(昭和二十六年四月三十日執行)の同時選挙と異なり、投票の順序を県知事選挙の投票を先にし、県議会議員の投票を後にしたが、被告委員会は法第六条の規定に違反し、右投票の順序方法につき選挙人に周知させるような措置をとらなかつたため、宗像郡選挙区においては多数の選挙人が投票の順序を誤解し、知事候補の投票用紙に議員候補者の氏名を記入して無効票とされたものが千数百票生じたというのであるが、まず本件選挙について被告委員会及びその指揮監督下にある宗像郡内各町村選挙管理委員会のとつた措置並に右選挙の結果について順次考察する。

一、被告委員会のとつた措置、

各成立に争ない乙第一、二号証、第六乃至第九号証(第七号証は一乃至四、第九号証は一、二)、証人内藤実の証言及び同証言によりその成立を認めうる乙第三号証、第四号証の一、二に証人藤本治久、白石博明の証言を綜合すると、被告の答弁一の(イ)に述べているような経緯により、福岡県知事選挙と同時に行われた、本件福岡県議会議員選挙につき昭和三十四年四月八日その選挙告示を行うと同時に県議会議員の投票用紙の様式の告示を行い、その中で赤色(知事は黒色)で印刷する旨明示し、県知事及び県議会議員の投票及び開票の順序についても前者を先とする旨の告示を行い、数次に亘つて開催された事務打合せ会においても、管下各市の選挙管理委員会及び各地方書記長に対し右事項を伝達し、更に北筑前地方書記長(本件宗像郡及び粕屋郡の各町村選挙管理委員会を統轄する)は宗像郡内の各町村選挙管理委員会委員長を集めて選挙事務打合せ会を開催して右事項を伝達したこと、被告委員会は本件同時選挙における投票の順序及び投票用紙の印刷の色分けによる区別、投票の方法等については被告の答弁一の(ロ)に述べているような経過により、ラジオ、テレビ、新聞広告、ニユースカー、飛行機によるビラの頒布、各種看板等の方法により福岡県全域に亘り必要と思われる事項の宣伝活動を行つたこと、なお被告委員会は、管下、地方書記長、及び各町村選挙管理委員会委員長に対し前記宣伝活動については各地方の実情に応じその独自の判断に基いて行うことを指導し、各選挙事務担当者の投票及び開票事務打合せ会においては、投票所の設備、投票の順序、方法等について具体的に指示し、選挙人に投票用紙を交付する際には「これが知事の投票用紙です、これが県議の投票用紙です」というように口頭で説明して渡すように指示し、更にその確認の方法としてすべての投票所に被告委員会と地方書記長の職員を監視員として派遣し、これを確認するような措置を講じたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二、宗像郡内各町村選挙管理委員会のとつた措置、

前掲各証拠に、証人滝口俊夫、小田利和、伊藤努、伊熊勇夫、遠藤二郎の各証言及び右証言により順次その成立を認めうる乙第五号証の一乃至五を綜合すると次のような事実が認められる。

A  宗像郡内の各町村選挙管理委員会(宗像町、福間町、津屋崎町、玄海町、大島村)は被告委員会及び北筑前地方書記長の指示に基き、それぞれの立場から、被告の答弁一の(ハ)に述べているような要領により、巡回映画、公民館報、座談会、町内区長会議の開催、有線放送、拡声器をつけた自動車による宣伝等各地区の実情に応じた方法により、本件同時選挙における投票の順序及び投票用紙の色分け等選挙に関し必要と認める事項についての宣伝、啓発を行つている。

なお北筑前地方書記長においても係員が同年四月二十日から同月二十三日にわたりニユース、カーにより管内全域を巡回して同様趣旨の宣伝をした。

B  昭和三十四年四月二十三日投票当日の状況

本件同時選挙における宗像郡内各町村の「投票所の設備」については、公職選挙法事務取扱規程(昭和二十五年福岡県選挙管理委員会訓令第十八号)(乙第九号証の一)第十七条第四項の規定による第十四号様式に基いて適式に設置され、又北筑前地方書記長においても投票日前日の同月二十二日係員を派遣してその設置の状況を調査指導している。

右十四号様式によれば、「受付」及び「名簿対照所」を経て、まず、「県知事投票用紙交付所」において、知事の投票用紙を交付され、「知事投票記載所」で記載し、投票箱に投票用紙を入れ、次いで「県議会議員投票用紙交付所」において、議員の投票用紙を交付され「議員投票記載所」で記載し、投票箱に入れるように設備され、又係員に対しては前記投票用紙交付所において投票用紙を交付する際、選挙人に「これは知事の投票用紙です。」「これは議員の投票用紙です。」と口頭でいうように指示している。

更に、法第百七十五条の二の規定による「候補者の氏名及び党派別の掲示」についても同条及び「公職選挙法及び同法施行令の規定による選挙運動及び政党その他の政治団体の政治活動に関する規定」(昭和三十年福岡県選挙管理委員会規定第四十一号)(乙第九号証の二)第三十五条により、投票日当日前記投票記載所の上部その他適当な箇所に適式に掲示されている。

ただ玄海町の投票所においては、被告委員会の定める右第三十五条による一箇所の適式な掲示の外に、各投票記載所内に候補者の氏名及び党派別をガリ版刷りにしたものが掲示されているが、これは係員において正規の手続の外に、投票者の便宜を考慮し規定上余分なことをした迄であつて、これにより何等の事故も発生していないから、これを違法としてとがめるには当らない。

三、本件同時選挙の無効投票について、

前掲各証拠に当裁判所の検証の結果を綜合すると、宗像郡内の無効投票は別紙第一表(赤字)に示すとおり、県知事選挙において一、四五六票、県議会議員選挙において九三四票であり、そのうち、「候補者でない者の氏名を記載したもの」は前者において一、一二九票、後者において六六六票である。

更にその各町村選挙管理委員会別の内訳は別紙第二表及びこれを集計した第三表のとおりであるが、知事選挙の投票用紙に議員候補の氏名を記入して無効票とされたものが約(以下同じ)一、〇四六票(その内訳中村候補四二六票、花田候補三七〇票、高山候補二五〇票)、反対に議員候補の投票用紙に知事候補の氏名を記入して無効票とされたものが約四七六票で前者が後者に比し著しく多い(約二、四倍)ことが注目される。

而して本件同時選挙における無効投票の原因を的確に把握することは困難であるが、選挙人の大部分が前回及び前々回の同時選挙がそれぞれ四年及び八年の年月を経過しているのでその際における知事と議員の投票順序が本件選挙と逆になつていることを記憶していない点から推測すると、今回の同時選挙における投票順序の変更が無効票増加の大きな原因をなしているということはできないし、又地方選挙においては選挙人が知事選挙より身近な議員選挙に対する関心が大きいところから、本件同時選挙において知事の投票用紙と議員の投票用紙に同一候補者名を記載したものもあるのではないかということが推測されるのである。

証人藤井武夫、柴田弘、山口衛、滝口直、滝口利三、遠藤式次郎、魚住善雄、伊規須要一の証言及び原告本人の供述中前記認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上を要約すると被告及びその指揮監督下にある宗像郡各町村選挙管理委員会は、本件同時選挙における投票の順序、方法等選挙に関し必要と認める事項については、予算及び事情の許す限りにおいて選挙人に対しできる限りの周知徹底を図つたことが認められ、その間において何ら法規違反の事実がないばかりでなく、前記のような無効投票発生の原因は被告が法第六条に違反しこれ等の事項につき周知徹底を図らなかつたことに起因するものであることを確認するに足る何らの証拠もない。

更に公職選挙法第六条は、公職選挙に関する概括的な総則的規定の一つでいわゆる訓示規定で効力的規定ではないから、選挙管理委員会がこの規定の趣旨に著しく違反し、これがため選挙の結果に異同を及ぼすおそれがあるならば、同法第二百五条により選挙の無効をきたす場合があるであろうが、本件においては被告が法第六条に違反し選挙人に周知徹底の措置を講じなかつたとの事実は認められないのであるから、これを理由とする原告の本訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 丹生義孝 岩崎光次)

(別紙省略)

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